ルリビタキと人間 ― 見えている世界の違い
小さな鳥が持つ“スーパー・ビジョン”
ルリビタキ(Blue Tit、学名 Cyanistes caeruleus)は、ヨーロッパに広く分布する小型のカラフルな野鳥です。青い頭と翼、黄色い胸が特徴ですが、その美しさは人間の目だけでなく、鳥同士の世界でも特別な意味を持っています。
その理由は、この鳥の持つ高度な色覚能力にあります。
人間の色覚 ― 三原色の世界
人間の目には、赤(L錐体)、緑(M錐体)、青(S錐体)の3種類の錐体細胞があります。
これにより、波長およそ 380〜700nm の可視光を感知し、特に**黄緑(約555nm)**付近で最も感度が高くなります(CIE 1931 V(λ)曲線)。
この仕組みは「三色型色覚(Trichromacy)」と呼ばれます。
ルリビタキの色覚 ― 四原色+紫外線の世界
一方、ルリビタキを含む多くの昼行性鳥類は**四色型色覚(Tetrachromacy)**を持ちます。
人間の3種類の錐体に加え、**紫外線(UV)を感知する錐体(UVSまたはSWS1)**が備わっているのです。
代表的なピーク感度は以下の通り:
UVS(紫外線錐体):約370nm
SWS2(短波長錐体):約445nm(青)
MWS(中波長錐体):約508nm(緑)
LWS(長波長錐体):約565nm(赤黄)
【豆知識:鳥類の色覚タイプは大きく2種類】
鳥の四色型色覚は、大きく分けると
UVS型(Ultraviolet Sensitive):紫外線の短波長にピーク(~360–373nm)
VS型(Violet Sensitive):紫付近にピーク(~402–420nm)
に分類されます。インコ(オウム目)の多くはUVS型で、紫外線感度が高いのが特徴です。つまりルリビタキは色覚的にはインコに近い存在です。
下図は、人間とルリビタキの色覚感度曲線を比較したものです。

ブログ鳥と人間の視力の違いに
黒線は人間(CIE 1931明所視感度曲線)、橙線はルリビタキの総合感度、破線はルリビタキの各錐体感度を示しています。
紫外線領域(左端 300〜400nm)にルリビタキ独自の感度ピークがあり、人間との“見える世界の違い”が一目瞭然です。
見えている世界の違いの例
羽の模様:人間には単色に見える羽も、ルリビタキ同士には紫外線反射パターンが見え、個体識別や求愛に利用される。
花や果実:紫外線反射を手がかりに、蜜のある花や熟した果実を効率的に探すことができる。
捕食回避:環境中のコントラストを高め、捕食者や獲物を早く見つけられる。
まとめ
同じ景色を見ていても、ルリビタキは人間より広い色域と高い識別精度を持つ別世界で暮らしています。
この違いは自然界の多様さを知る手がかりとなり、私たちの感覚の限界を意識させてくれます。
参考文献
Hart, N. S., & Vorobyev, M. (2005). Modelling oil droplet absorption spectra and spectral sensitivities of bird cone photoreceptors. Journal of Comparative Physiology A, 191(4), 381–392.
Govardovskii, V. I., et al. (2000). In search of the visual pigment template. Visual Neuroscience, 17(4), 509–528.
CIE (1931). Photopic luminous efficiency function V(λ). Commission Internationale de l'Éclairage.